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ある”元”新聞配達員について
2017年6月7日水曜日

一流企業に就職したくらいで、生活の不安から解放されることは無い

金では結局安心は買えないのかなあと感じる。
私の交友関係の中で、たぶん最も安定した企業に就職した男と最近遊ぶ機会があって話した。

この男とは小学校からの仲だが、その頃から努力家で、中学までは一緒だったが、高校、大学は私とは比べものにならない頭の良い学校に通い、スムーズにIT関係の企業に就職し、奥さんを得て、今に至っている。
ただ彼は才能に恵まれたタイプでは無く、努力でコツコツ勉強して、1番にはなれないが上位に食い込む秀才タイプで、勉強以外はからっきし、クリエイティブなセンスも無ければ、運動神経もゼロといった感じであり、そしてまた自信というものを感じられない、内気で恥ずかしがり屋、またくよくよと心配する性格もあった。

この男が数年前、実に可愛らしい女性を嫁にもらって、あの人前に出るとすぐに顔を真っ赤にしていた内気な男が、よくぞこんな可愛い女性を射止めたものだと、人間地道に馬鹿正直に努力していると、何か神様に贈られたようなギフトがあるものだと、心から祝福したい気持ちになった。

しかし話をしている中で首をひねりたくなるような内容もあった。

それは、彼ら夫婦の間になかなか子供ができない、はっきりとはしないが、検査の結果を見ると、男側には問題は無さそうであり、どうやら母体のほうに不妊のなんらかの原因があるのかもしれないという流れからの話の内容についてなのだが。

それを聞いて私は、知り合いの、バリバリ飲食店の厨房で鍋と包丁を振るって日夜働きまくる女性を思い出した。
彼女は男顔負けに朝から晩まで働きまくっていたが、同じく不妊であった。
そして検査した結果(詳しくは知らないが結論だけ教えてもらった内容によると)”一生妊娠は難しい子宮の状態”とのことであったようだ。

この同級生の男のその可愛らしい奥さんというのも、結婚してからもまったく変わらずフルタイムで会社勤めをしていた。
なので、このエピソードを紹介し、母体というのはすごくデリケートなものであるから、子供が欲しいなら今すぐにでも奥さんを仕事から解放してやったらどうだと、我が事のように心配になってそう迫ったのであるが…

どうもこの男がはっきりとしない、乗り気では無い。
理由を聞くと、やっぱりいきなり収入がガクンと減ると、どうなるか心配だと言う。

何を言ってるんだと、お前一人でも大丈夫だろうと、こんな安定した企業に勤めて、じゃあそもそもお前は一体月いくらもらってるんだと聞くと、手取りは大体30万円くらいだと。
それに年2回のボーナスが結構もらえるけど…、というような答えであった。
つまり現在は奥さんの収入を合わせると少なくとも50万円以上はあるということだ。30歳そこそこで。

私からしたら月50万円あったらお金が余りすぎて腐るんじゃないかと思うが、人間そう単純には行かず、それが当たり前の生活になると、その収入が”最低ライン”となってしまう。
それが半減したところで30万円あったら悠々と暮らしていけると私の基準からいったらそうなるが、彼の基準からいったら、いきなり今までのお金の使い方を半分にカットしないといけないというような感覚になり、不安なのだろう。

しかし事は一生にかかわる。
結婚しても女性に働いてもらいたい、稼いでもらいたい男性というのはこれからの時代増える一方であると思うが、不妊の問題は何よりも優先順位が高いのでは無いか。
今無理をさせ続けたら、本当に一生子供を授からないかもしれないぞと言っても、あまり響かないようで、曖昧な返事で結局その場は終わった。

不安を拭いきれない要素として彼が話したことは、まずもしマイホームを買うとしたら、その資金をできるだけ貯めないといけないということ、そして子供ができたらその教育費にいったいどれくらいの金額をつぎ込んでしまうか具体的に想像もつかないので、それもやはり今の内にできるだけ貯めこんでおきたい、というような、そういう未来の莫大な出費に対する、漠然とした不安だった。

これだけ稼いでいる夫婦の間にも、こういう不安は常につきまとって身動きを取れなくしてしまっている事実を、まざまざと感じたものである。

使おうと思えばいくらでも使えるのがお金で、ここまで行ったら安心だというゴールが無い。
生活の水準を上げるというのは、当たり前のラインを上げるという事で、わざわざ人生のハードルをどんどん上げて首を絞めているように見える。
確かに周りからは、いいな〜とか、素敵な生活だね〜とか、羨ましがられるかもしれないが、本人の実感の中でその当たり前のラインがどれほど本人を満足させているかということになると、また別問題で、結局はどんな低水準の生活をしている者とも、種類は違えど同じ量の不安や不満を抱えているなら同じことである。

この男は、上記したような性格的に全体的な自信の無さが、幼いころから染み付いていてなかなか拭きれないでいる。
これは、仕事で得る経験などによって今後どんどん克服されていくのかもしれない。
しれないが、少なくとも、仕事で得るお金、月30万円程度の金額で、自信を買い取る事は、できないでいることは確かなようであった。

お金で安心を買うこと。
お金で自信を買うこと。
お金で幸せを買うこと。
どれも極めて難しい、どれほど金額を叩いてもほとんど不可能なショッピングである。

お金を使う生活に慣れることは、お金が有り余って仕方ない御仁以外は、ただただ損だと私などは思う。

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