欲求が満たされた時の快感というのは、それほど長持ちしない、という特性を人生という長いスパンで考えていただきたい。
夢を追う、ということを人は夢見るものであるが、なぜ夢を追いたいのかというと、これは欲求の発生と解消の快感スパイラルの最も巨大なものを設定すると、人生に張りが出て、空虚感や不毛感、倦怠感や迷走感から解放されやすいという効果があるからだ。
こういった大きな夢から、小さな目標まで、設定した欲求の解消を糧にして、人はがむしゃらに頑張る性質を持っている。
頑張れない人というのは、要はこういう欲求の発生と解消のスパイラルに入り損ねている人だと予想する。
私はというと、半分脱しかけているが、片足突っ込んで片足抜けているくらいが、自分にはちょうど良いんじゃないかとも今は思って居る。
さて、それら性質を踏まえて、人生を設計するならば、小さな目標のみならず、比較的巨大な夢というのも、随所に散りばめてあったほうが良い。
例えば私がまず一番に思いつく、まずい例というのがあるが、これは当てはまっている御仁が読んだら気を悪くされるかもしれないから書きにくいのだが、書かないと話が進まないので書いてみよう。
例えば、結婚というのが大きな夢としてある御仁（あった御仁）というのは多いであろう。
これは人生において相当大きな部類の夢であるので、結婚という欲求が解消された瞬間というのは、人生で一二を争う大きさの快感を感じることができるであろう。
ちなみにここでは頑なに”快感”という言葉を使うが、これは”幸せ”と混同したくないからである。
特に若い人が「幸せってどういうものだろうか？」とぼんやり思い浮かべた時に、思いつく感覚というのは、ここで挙げたような、結婚した瞬間の”快感”のことを想像してしまう人が多いと思うが、これは正確には幸せでは無く、欲求が解消した瞬間の快感であり、これはどんなに巨大な感覚であっても、この感覚だけを頼りにその後何十年充実感を持続させるのは不可能である。
よって、こういう感覚に期待を抱きすぎている御仁は、得てして結婚後燃え尽きる傾向にある。
燃え尽きるとは何かというと、最大の目標を見失うことで、解消すべき欲求を失うことである。
それは充実感では無いのかと思うのだが、人はなかなか、欲求を完全に捨ててなお、毅然と揺るぎなく生活を淡々と続けるのは難しいようである。
話を戻して、結婚という夢を叶えれば、相当な快感を得ることができる。
さてそれは良いのだが、多くの人はさらにそのタイミングで新しい家を買い、新しい車を持つ。
盛大な結婚式を催し、新婚旅行に出かけて、おしゃれな家具を一式揃える。
まさに人生の春であるが、人生の巨大な欲求の巨大な解消点を、ここ一点に定めて、集中して済ませてしまうのは、損だと思うのだ。
人がいっ時に味わえる快感の量などたかが知れていて、どんなことでも数ヶ月持続すれば、当たり前の感覚に溶け込んで消えていってしまうものである。
結婚して家と車を買って新婚旅行にハワイに行って子供ができて、今はお気にいりの家具を揃えてこんな素敵な部屋で過ごしてます、と年賀状にでもしたためて、知人友人に触れ回るころには、もうこれだけの超ド級の快感群は、そろそろ下火ということになってしまう。
これはどうしようもない。
快感というのはそういう性質のものであるのだから、その特性を念頭に置いて、いっ時に固めて打たないほうが良いのだ。
後に残るのは膨大な、４０年、５０年という、これといって巨大な夢を失ったままに続く、ローン生活である。
欲しい物がある、叶えたいことがある、という状態は、欲求不満の状態のように見えて、おそらく人を生き生きさせる。
叶わない夢に悩みすぎるのも鬱になるが、結局夢など、快感を発生させるためのマッチポンプのような所作でしか無いのだから、あまり思いつめすぎないほうが賢明であろう。
つまり、欲しい物は、あれこれ思い浮かべてはニヤけながら、ゆっくり集めたほうが良い。
叶えたいことは、あれこれ思い浮かべて夢見ながら、ゆっくり追ったほうが良い。
叶えた先にまだまだ上の目標が常にある、という御仁はどんどん叶えないと追いつかないかもしれないが、人生の最上級の目標設定は、２０代３０代で早々と片付けてしまっても、それが幸せに繋がるとは限らない。
幸せは見つけたら見失うまで続くが、快感欲求は、常に乾いては潤すを繰り返さないといけないことを忘れずにいないと、前述したような快感の固め打ちはのちの首を絞めるかもしれないと思うのだ。
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